St Lukes Clinic
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我が内なるドイツ的なものの巻


 私は日本は知っている。アメリカもある程度理解しているつもりだ。

だが、ドイ ツとはどんな所だろう?単純な動機でドイツへ行く事を決めたのが大学 生の頃だった。ドイツについて考える。


 最初に心配した事が食事だ。実はジャガイモがあまり好きではなかったのだ。

すると、ドイツから帰って来た駐在員の人がわざわざ私を家に呼んで教えてくれた。

”ジャガイモったって煮たり焼いたりで、いろんな料理の仕方があるでしょう。 決してドイツ人は朝昼晩蒸したジャガイモを食べる訳じゃあないんだよ。”

しかし、ドイツへ行って驚いた事に、ドイツ人は朝昼晩、蒸したジャガイモを食べていたのである。人間とは粗食でもやっていけるんだなと私は感心してし まった。


 よくドイツ人はBluntにして親切という。例えば、上着が汗臭かったとする。少々臭くてもアメリカ人なら失礼な事は言わない。ところが、ドイツ人ははっきり言う。

"あんたの上着、臭いね。” その上で、"ほら、新しい上着あげるから着なさい。"

親切にして無礼な程の率直さ。ドイツ人のやり方はアメリカとあまりにも違い、 慣れないとなかなか何を考えているのか分からない。


 ドイツの駅で列車を待っていた時の事である。プラットホームに立っていると向かい側のプラットホームに背広を着て帽子をかぶったドイツ人紳士が気を付けの姿勢でいる。ドイツ人は軍隊経験者が多いせいか、軍人調に気を付けの姿勢を取る人が多い気がする。この紳士は直立不動の姿勢でじっと私 を見ていた。見つめていると思うのは気のせいだろうかと、プラットホームを少しずつ移動し、ちらりと見ると、姿勢をキチンと私の方に向け直してじっとみている。

なんだか、気まずい。ちょっとずつ立ち位置をずらしながらしていると、やがてこの紳士が話しかけて来た。

"Wohin gehen Sie?”(どちらにお出かけですか?)

これも又、None of your businessといわれるのがオチでアメリカでは絶対言わない質問だ。しかたがないので行き先を告げると、にっこりしてあなたは、正しいプラットホームにいる、と言ってくれた。なんだ、このおじさん外国人の私が迷っていないかどうか心配してくれていたのだ。怖い顔しているくせに親切なんだと、ようやくドイツ人がわかりかけてきた。


 北ドイツにAnkumという開村1000年を祝う村がある。この村の中心の丘には巨大 なカトリック教会堂があり、その地域一帯の教区本部がおかれているため、村人は自分たちの村は近くの村々より格が上だと誇りにしている。

 私が自動車に乗せられてこの教会堂の丘の下を通りがかった時、突然教会の鐘がなった。教会の鐘がなるなど、風情があってよいとは近くで教会の鐘がなるのを聞いた事がない人の言う事だ。鐘の音は大音響などという生やさしい形容では追いつかない。自動車の窓はビリビリと震え、横隔膜はがくがくして、隣の人がしゃべるのは口がパクパクするだけで何も聞こえず、ついにこの世の終わりが来たかと思った。

 車の外を見ると狩猟帰りなのだろう、ドイツのおじさん達が銃を肩に担いで歩いていた。ドイツ人は軍隊経験者が多いのか、元々が軍人気質なのか、5−6人が歩くときは、三々五々ぶらぶら歩く事はしない。必ず隊列を組んで歩く。突然大音響で、人々が銃を持って平然と行進していたら、やっぱりそれは怪しいのではないか?

日本やアメリカの常識とはやっぱり違う世界だ。私はその教会から大部離れた家に泊まった。夕方に散歩していると遠くで教会の鐘がなっていた。矛盾しているようだが、ドイツはいいなあと、その時感じた。


 ドイツが気になってからドイツ映画も大部みるようにしている。不自然なHappy Endを無理矢理つくるアメリカ映画と違い、ドイツ映画は暗い。その中でもドイツ人がヒトラー問題についてつくったDown Fallという映画はとくにドイツ的で ある。

 地下壕にこもるヒトラーの最後の日々の映画だが、ヒトラーそっくりの俳優がヒトラーそっくりに癇癪をおこし、なかなか見応えがある。要は負け戦の物語なのだが、ドイツ人が何故、ヒトラーを選んでしまったのかという事を逃げずに追求していて面白い。

 映画の中でヒトラーが作戦を参謀達と練る場面がある。敵の兵力はこれこれで味方はこれだけ、ここをこうすると、負ける。では、反対にこうするとやはり味方は負ける。さすがドイツの参謀達は軍事専門家として正確な勝敗の読みをする。だったらどうするのか。これが日本なら、じゃあ、破れかぶれで全員で特攻という意見になるのだが、ドイツは冷静でそんな事は考えない。あくまで苦悩するのである。
 結局、ヒトラーは自殺し、ベルリンは陥落、ドイツは組織的に敗北をするのだ。その敗北のやり方も秩序だっていて理路整然、粛々と国家が解体してゆく。ドイツの敗戦に比べたら日本の敗戦などまだ可愛いものだ。

 この几帳面なドイツ人がよくちゃらんぽらんなイタリア人と手を結んだものだ。

ドイツにいる間、やっぱりドイツ人に言われた。

"今度はイタリア人抜きでやろう。"



内科医 小林 恵一

聖ルカクリニック

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